生前に受けた援助と遺産分割協議について
Q. 昨年私の父が亡くなり、現在遺産分割の話し合いを勧めています。相続人は母と私、兄と妹の4名です。遺産は自宅の土地建物が2600万円、現預金が1000万円です。兄は、遺産3600万円を法定相続分に応じて分割し、土地と建物は母が亡くなるまで4人で共有にしようと言っています。
しかし、兄は20年前に結婚したとき自宅の建築資金1000万円を父から援助してもらっています。また、妹は、25年前に結婚する際、600万円を持参金として持たせてもらっています。私は高校卒業後すぐに働きましたので、父から援助を受けた記憶がありません。私からは何も言えないのでしょうか。
A.相続人間の公平は特別受益の持ち戻しで!
兄と妹が亡父から受けた生前の援助は、遺産分割にあたり「特別受益」として考慮することが可能です。
具体的には、兄と妹が生前に援助を受けた金額を相続開始時点の評価で見直し、それを計算上一旦遺産に持ち戻して遺産総額を算出し、改めて法定相続分に応じて計算した各自の相続分から、兄と妹については、既に援助を受けた金額を控除して、最終的な具体的相続分を計算することになります。
具体的相続分の算出方法
上記例では、相続開始時点で存在した遺産の合計は、土地建物の評価額2600万円と現預金1000万円の合計3600万円です。
これに兄が20年前に自宅の建築資金として援助を受けた1000万円の相続開始時点の評価額(これを例えば1100万円とします。)と、妹が25年前に持参金として援助を受けた600万円の相続開始時点の評価額(これを例えば700万円とします。)をそれぞれ加算します。
すると、持ち戻し後の遺産総額は、3600万円+1100万円+700万円=5400万円となります。
次に、これを法定相続分に応じて、母、兄、質問者、妹に割り振ると、母2700万円(2分の1)、兄、質問者、妹がそれぞれ900万円ずつ(6分の1ずつ)となります。
そして、兄は生前1100万円の援助を受けていますので、900万円-1100万円=▲200万円、妹は生前700万円の援助を受けていますので900万円-700万円=200万円となります。
このとき兄の具体的相続分がマイナスになりますが、マイナス分まで返還する必要はありませんので、兄の具体的相続分はゼロとなります。
もらい過ぎはどうやって清算するの?
兄のマイナス分200万円を他の相続人間でどう割り振るかについては争いがあり、上記例でいうと具体的相続分である母2700万円、質問者900万円、妹200万円の割合に応じて負担すべきとする考え方(具体的相続分基準説)と単に法定相続分の割合に応じて負担すべきとする考え方(法定相続分基準説、上記例では母2分の1、質問者と妹6分の1ずつの割合)があり、実務でも考え方が分かれています。
このようにして計算された具体的相続分を基準として、相続人間で遺産分割協議を進めていくことになります。
ヒューマンネットワーク中村総合法律事務所
弁護士好川久治
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