家業の手伝いと特別の寄与とは?
Q.私の夫は、農家の三男坊で高校を卒業してから家業の農家を手伝ってきました。私が夫に嫁いだ後は私と夫が二人三脚で高齢の義父に代わって農作業に従事してきました。
ところが、昨年義父が亡くなり、四十九日の法要の後、夫の兄二人が遺産分割の話しを始め、義父の農地や預貯金など財産は全て法定相続分に応じて分割するように言ってきました。義兄二人の言うとおり遺産を分割すると農地を手放さなければなりません。また、私と夫が30年以上、手弁当で義父の農業を手伝ってきたことが正当に評価されていないようでなりません。私には何か主張できることはないのでしょうか。
A.家業への貢献は寄与分で考慮する!
夫が30年以上にわたって手弁当で家業の農業を手伝ってきたことは、相続人間の遺産分割協議において、義父の遺産の維持増殖に特別の寄与をしたものとして、寄与分に相当する金額の先取りを主張することが可能です。ただし、寄与分を主張できるのは相続人だけですので、妻であるあなた自身が自らの貢献を主張して遺産の受取りを主張することはできません。あなたの貢献は夫の貢献として考慮していくことになります。
特別の寄与とは?
そもそも、義父の遺産を維持できたのは、30年以上にわたってあなたとあなたの夫が家業の農業を手伝ってきたことが大きく貢献していることは明らかです。その貢献を無視して、遺産を単純に法定相続分で分割するとすれば、あなた方夫婦の夫の遺産の維持増殖への貢献が正当に評価されず不公平です。
民法は、このような不公平を解消するため、共同相続人の中に、「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者」があるときは、相続財産の中から共同相続人の協議で定めた寄与分を控除したものを相続財産とみなし、これを法定相続分に応じて分割し、最後に寄与分を加えて寄与者の具体的相続分を計算すると定めています(民法904条の2①)。
民法が寄与分を認めるのは「特別の寄与」に対してです。特別の寄与が認められるためには、親子等の身分関係上、当然に期待される程度の貢献だけでは足りず、無償ないし無償に近い報酬で、かつ相当長期間にわたり、被相続人の事業に専念し、その結果、被相続人の財産の維持増殖に現実に貢献した事実がなければなりません。
本件は、手弁当で30年もの間、家業の農業に従事してきたというのですから、特別の寄与が認められるケースでしょう。
相続人の協議が整わない場合は家庭裁判所で遺産分割の調停を!
具体的にどの程度の遺産の先取りが認められるかはケースバイケースで非常に難しいところですが、一般的には遺産総額の1~3割程度の寄与分認定が多いと言われています。
寄与分は、基本的に遺産分割協議時の相続人間の話し合いで決めます。話し合いがつかない場合は、家庭裁判所に申し立てられた遺産分割の調停のなかで話し合われ、最終的には家庭裁判所の審判において、裁判所が「寄与の時期、方法、程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮」して合理的な裁量により決定することになります。
ヒューマンネットワーク中村総合法律事務所
弁護士好川久治
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