親の責任を否定した最高裁判決が話題に!
小学校の児童が他人に与えた損害について最高裁が両親の責任を否定!
平成27年4月9日に最高裁が出した判決が話題になっています。
判決の事案は、小学校の児童が放課後にサッカーのフリーキックの練習をしていたところ、ボールが校庭から道路に飛出し、たまたまバイクで通りかかった80代の男性が転倒し、1年4ヶ月後に亡くなったという事件です。最高裁は、男性の遺族が児童の両親を訴えた損害賠償請求を退けました。
この判決が注目されているのは、当時小学6年生の児童が起こした死傷事故について、従来、ほぼ無条件で責任を負うとされていた法定監督義務者である両親の責任を否定した点です。
小さい子供の親には重い責任が課せられている!
民法は、自己の行為の責任を理解する能力のない者を責任無能力者とし、およそ中学入学時までの児童は民事の損害賠償責任を負わないとしています。
その代わり、父母など児童を監督する義務を負う者が児童に代わって責任を負うとしています(民法714条1項)。
この監督義務者の責任は、自ら義務を怠らなかったこと、又はその義務を怠らなくても損害が生じたことを証明すれば免責されることになっていますが、実際には、免責の主張が認められることは殆どなく、監督義務者は、事実上無条件の責任を負うとされてきました。
例えば、平成25年7月4日の神戸地裁の判決は、当時11歳であった小学生の児童が、夜間習い事の帰りにマウンテンバイク乗って住宅街の坂道を高速で下っていたところ、散歩していた女性と正面衝突し、女性に意識不明の重症を負わせた事件で、児童の母親に総額9500万円の損害賠償の支払を命じました。
このとき、児童は責任無能力者でしたので、被害者は母親を訴えました。裁判所は、自転車のような人に危害を与えるおそれのある乗り物を子供に運転させるにあたっては、親は児童に対し、自転車の運転に関する十分な指導や注意をしなければならないとし、当時児童はヘルメットをかぶっていないなど、交通ルールに反した乗り方をしていたので、母親の「指導や注意が功を奏しておらず、監督義務を果たしていない」としました。
日頃、子供に交通ルールを守るよう一般的な注意指導をしていただけでは責任を免れないとしたわけです。
今回の最高裁判決は必ずしも親の責任を軽くみたわけではない!
これに対し、サッカーボールの事件で最高裁は、「責任能力のない未成年者の親権者は、その直接的な監視下にない子の行動について、人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があると解されるが、本件ゴールに向けたフリーキックの練習は,上記各事実に照らすと,通常は人身に危険が及ぶような行為であるとはいえない」、「親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は,ある程度一般的なものとならざるを得ない」、「通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り、子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。」としました。
つまり、親が日頃から人に危害を与えないよう一般的な注意指導をしていただけであっても、該当する行為が、「通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為」であれば、親に監督義務違反の責任を問うことはできない、としたのです。
確かに、最高裁の事例を見れば、一般的に危険性の低い行為からたまたま発生した事故について、親がいつも子供を監視して注意指導しなければならなくなる責任を負わせるのは酷な事案であったと言えそうです。
しかし、注意すべきは、この最高裁の判決によって、今後親の責任が一般的に軽減されることではないということです。
上記自転車の事案との違いは、サッカーボールの事案は、学校の校庭内で所定のゴールをめがけてサッカーボールを蹴るという、ごく普通の校庭の使用方法であったということです。
ルールに沿った通常の行為である限り、たとえ他人に怪我を負わせたとしても違法ではない、という常識的な判断であったとも言えます。
ですから、校庭の事案でも、ボールが頻繁に道路に飛び出していたとか、過去にも同様の事故が起こっていたなど事情があれば、結論は変わっていた可能性は十分にあります。
その意味で、今回の最高裁判決を一般化することはできないと思います。
ヒューマンネットワーク中村総合法律事務所
弁護士好川久治
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